鉛オモリの影響を知りたいと思った ②

前回の記事

普段何気なく使っている鉛製のオモリ。毒性があるとは聞いたことがあるけれど……「実際にどういう毒性なのか」を調べてみました。
では鉛の人体への影響を書きました。

今回は釣り人にとって気になる「野生生物や環境への影響」について書いていきます。

スポンサーリンク

鳥類の鉛中毒問題

人体にとって有害になる鉛は、当然野生生物にとっても毒性を持ちます。
野生生物の鉛中毒について調べてみると、特に猛禽類と水鳥の鉛中毒事例が多く、どちらの場合も狩猟で使われる鉛製の銃弾が原因になっているようです。

猛禽類

狩猟に鉛の銃弾が使われる場合、猟場に残された狩猟物(シカ等)の残滓(内臓など)に銃弾が残ってしまうことがあります。また、狩猟物が銃弾を受けながらも猟師から逃げ切る場合もあります。
後にこれらを猛禽類が食べる時に鉛の銃弾(欠片)も一緒に飲み込んでしまい、鉛中毒になってしまうのです。

水鳥

水鳥(白鳥など)には、胃の中で餌をすり潰すための小石を飲み込む習性があります。
そのため、水辺での狩猟時に残された鉛の銃弾(散弾が多いようです)を小石と共に飲み込んでしまうのです。

これらの事例は狩猟が盛んな欧米諸国のものが多いようですが、もちろん日本でも同様の事例が報告されています。
鳥類の鉛中毒事例は、釣り人にはあまり関係がないかもしれません。

しかし、釣り人の捨てた仕掛け・オモリ(だいたい鉛)が水辺に落ちている、なんてことはよくあることです。このようなオモリを鳥などが誤飲してしまうことがあるかもしれないので、ゴミや仕掛け類を捨てていくのは絶対にやめましょう。(仕掛けが絡むことも野生生物にとっては死に繋がります)

水中の鉛ってどうなるの?

「根掛かり等でラインが切れ、水中に仕掛け(オモリやルアー等も)を残してしまった。」というのは釣り人なら誰でも経験するはずです。

ここで気になるのは、「水中に残した鉛オモリが環境汚染につながるのか?」ということではないでしょうか?
何気なく使っている鉛オモリが、重度の環境汚染につながっているとしたら嫌ですよね……?

水中の鉛オモリは水に溶けてしまうのか?それともそのままの形で残るのか?はたまた水底の物質と同化してしまうのか?
もし水に溶けてしまうのなら魚介類への影響はどうなのか?生物濃縮は起きていないのか?など疑問は尽きません。

疑問を解消するために色々と調べてみました。

……結論から先に書くと、「水中の釣り用鉛オモリが与える環境・生物への影響」についての研究論文は見つかりませんでした。
見つかるのは水底の重金属(鉛も重金属の1つ)に関する調査のものばかりです。

「大阪湾における底質重金属濃度と底質環境との関係」や他の論文で日本各地の海底での重金属濃度に関する調査報告が行われています。

これらによると、

  • 高度経済成長期だった1970年頃は、工業地帯付近の海では工場排水によって重金属濃度がピークを迎えていた。
  • その後は工場排水の規制や下水処理対策の成果が出て重金属濃度が下がった。(鉛の濃度は、多くの場所でピーク時の50%以下に)

ということがわかります。

しかし、これらを見ても肝心の「釣り用鉛オモリの影響」はわかりません。
そこで、「鉛は水に溶けるのか?」についてググってみると、ちょっと変わった実験の資料が見つかりました。

鉛製の銃弾と釣り用オモリが蒸留水にどれだけ溶けるかを調べた実験です。


出典:環境省ホームページ「巻末資料A、銃弾の水への溶解性」http://www.env.go.jp/info/iken/result/h190124b/b_2_3.pdf(参照2017-11-30)

この表を見ると、約5gの鉛オモリを蒸留水に45日間漬けておいたところ、約42mgの鉛が水に溶けたということがわかります。

これは1日当たり0.93mgの鉛が溶けたということです。つまり、1日当たり0.0184%の量が水に溶けているということが示されています。…え~と、単純計算で5435日(約15年)で全部が溶けることになります。……意外と早い、いや遅いか。

「鉛は水に溶けるのか…じゃあ、釣りで使うオモリも全部水に溶けてしまうのか。」と思ったんですが……どうやらそう単純ではないようです。

2つ引用します。

水域に人為的に負荷された重金属の多くは,速やかに水から除去されて水底に堆積する。堆積物の重金属濃度は著しく低いので,底質の重金属汚染の発生となる。一度水底に堆積した重金属は長くそこに留まるので,そこを生活の場とする魚介類に重金属が蓄積し,被害へと導かれやすい。

出典:公益社団法人 日本水環境学会「底質の重金属汚染」J-STAGE、https://www.jstage.jst.go.jp/article/jswe1978/12/5/12_5_274/_pdf/-char/ja(参照2017-11-30)

1.2 生物類における取り込み・喪失・蓄積
環境中の鉛は、堆積物および土壌に強く吸着され、生物による利用は少ない。鉛の塩類は大部分が低溶解性のため、鉛は複雑な溶液中では沈澱する傾向がある。

1.2.1生態系モデル
水生および陸生生態系モデルにおいて、主要な生産者および消費者による取り込みは、鉛の生物学的利用能により決定されるように見える。生物学的利用能は、有機質、堆積物、金属微粒子(例えば、粘土)などが存在する場含には、一般にはずっと低い。多くの生物においては、生物により吸着され、あるいは実際に取り込まれるかどうかは明らかではない。(生態系における)消費者は、汚染された食餌から鉛を取り込み、それはしばしば高濃度に達するが、生物濃縮(biomagnification)をおこすことはない。

1.2.2水生生物類による取り込みと蓄積
水生生物による、水および堆積物からの鉛の取り込みと蓄積は、温度、塩分、pH、フミン酸およびアルギン酸の含有量などの各種の環境因子により影響される。汚染された水系においては、ほとんどすべての鉛は堆積物と強く結合している。堆積物微粒子の間に水がある場合でも、一部分が水に溶けるのみである。
魚類による鉛の取り込みは、暴露後数週間を経てはじめて平衡に達する。鉛の大部分は童思(えら)、肝臓、腎臓、骨に蓄積される。魚類の卵では、暴露濃度の増加により、その鉛濃度は上昇するが、鉛は卵の表面に存在し胚子には蓄積しない。

出典:国立医薬品食品衛生研究所「鉛 Lead – 環境面からの検討 -」http://www.nihs.go.jp/hse/ehc/sum1/ehc085.html(参照2017-11-30)

これらの引用文によると、

  • 低溶解性の鉛は複雑な溶液中には溶け難く、速やかに水から除去されて水底に堆積する。
  • 一度水底に堆積した重金属は長くそこに留まり、そこを生活の場とする魚介類に重金属が蓄積しやすい。
  • 汚染された水系では殆どの鉛は堆積物と強く結合し、堆積物微粒子の間に水がある場合でも一部分が水に溶けるだけ。
  • 汚染された食餌から鉛を取り込むことで高濃度に汚染される生体もいるが、生物濃縮が起きることはない。

ということが述べられています。

不純物のない蒸留水での実験とは異なり、自然環境中の湖や海では鉛は溶け難くなるようです。そして、沈殿した鉛は堆積物と強く結びつき、なんとさらに水に溶け難くなるとのこと。

こうなると、水に溶けるよりも先に新しい堆積物に埋もれていく(そして強く結合する)ことになりそうです。そして、その上に新しく鉛・堆積物が沈殿してきて結合、その上にさらに………となっているのではないでしょうか?

このようにして水底の鉛濃度が高くなり、そこを生活圏にしている底生生物に悪影響が出ているのでしょう。

中でも、アサリ等の貝類は重金属汚染の影響を受けやすいようです。
貝類は周囲の海水や浮遊物を体内に取り込むこと餌を集めます。この時に鉛等の重金属も一緒に体内に取り込んでしまうので高濃度に汚染されることが多いのです。

この性質があるため、アサリやムラサキイガイ等は重金属汚染のモニタリング調査に活用されているのですが、貝からすればいい迷惑でしょうね……。

このように貝類等は鉛に汚染されやすいのですが、上記引用文によると「生物濃縮はおきない」らしいのです。
本当なんですかね?なんか違和感があるんですけど……。

色々とググってみたのですが、鉛の生物濃縮についての詳しい資料を見つけることができず、残念ながら「なぜ生物濃縮が起きないのか?」はわかりませんでした。

なんかモヤっとしますね…。「こうこう、こういう理由で鉛の生物濃縮は起きないんだ。」っていうソースが知りたいなぁ…。

他にも水底の重金属濃度によって生息する底生生物の種類数が変わってしまう、ということも指摘されています。

鉛の場合は,全体的に濃度が高くなるに従い,底生生物種類数が減少している傾向がある.ERL未満の濃度範囲でも,減少傾向がみられた.

出典:国立研究開発法人 海上・港湾・航空技術研究所 港湾空港技術研究所「港湾空港技術研究所資料」http://www.pari.go.jp/search-pdf/no1174.pdf(参照2012-5)

これによると、鉛濃度が高い水域ではすでに底生生物に影響が出ていて、限られた種しか生きられない環境になっている可能性があるようです。

これは大きな問題ですね…。毎日のように釣り人がいる人気釣り場では、すでに鉛オモリの影響が出ているのかもしれません。

釣り用鉛オモリの影響ついての具体的な研究は行われていないようですが、やはり水中の生物にとっても毒になる鉛オモリを将来にわたって使い続けるのは問題がありそうです。

環境面を考えれば、今すぐにでも鉛オモリから他素材のオモリに移行するのが理想的です……が、製品の選択肢が少なすぎるんですよね。
釣具店のオモリコーナーを見ても、欲しい重さ・形のものは鉛オモリしかない、ということも多く、鉛の使用を控えようとしても代替品が足りていないというのが現状です。

釣り人にできることは、なるべく鉛以外のオモリを使うようにして、あとは製品が充実するのを待つことくらいですが、実は他にもできることがあるのかもしれません。

引用します。

海藻は根を経由して堆積物より直接金属類を取り込み、葉からは水中の金属イオンを吸収するために重金属汚染の進んだ海域ほど植物体内の濃度が高くなることが分かっている(例えば、Phillips 1997、Villares et al.2005)。Rigollet et al.(2004)は、アマモ Zostera 属の根-地下茎システムが金属吸収ポンプとして機能しているものと推察している。

アマモをファイトリメディエーターとして将来利用するためには、1)本種の種子(花枝)の形成や、その発芽も含めた全生活史について重金属耐性を把握し、2)種苗生産や移植技術の開発などが必要となる。1)については既に述べたように、検討すべき課題は多く残されているが、高い蓄積能と耐性能を持っている可能性が示唆された。

出典:公益社団法人 日本アイソトープ協会「沿岸性海草種アマモZostera marinaの幼体による鉛の蓄積」https://www.jrias.or.jp/report/pdf/2006_2007_j1.2.05.pdf(参照2017-12-10)

この論文によると、海藻類は堆積物中の金属類を取り込んで蓄積しやすいという特徴があり、中でもアマモは鉛に対して耐性があり、その上鉛を蓄積しやすいので海底の鉛汚染を防ぐ役割を担ってくれるのではないか?ということが示唆されています。

アマモが成長すると共に海底の鉛を取り込むので、海底の鉛濃度が下がるようです。汚染地域に多くのアマモを移植すれば、多様な種類が生息できる環境に変えることができるかもしれません。…すごいですね。

しかし、海底の代わりに汚染されたアマモはその後どうするんでしょうかね?
成長したら刈り取ってしまうのが良いのか、それとも植えた後は放っておいても構わないのか……まあ、こういったことは今後も研究されていくんでしょう。

それにしても、「アマモを植えることで海底の鉛汚染を防げる」可能性があるというのは意外でした。
環境保全の一環としてアマモを移植する活動は色々な所で行われている(神奈川だと海辺つくり研究会さんとか)ので、気になった方は調べてみてください。

これらのアマモ移植活動は生態系を育むことを目的として行われていることが多いようですが、鉛汚染を防ぐことになるのだとしたら釣り人にとっても見過ごせない活動といえるのではないでしょうか?

これで鉛についての記事は終わります。

できることからやってみませんか?

スポンサーリンク

シェアする

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

フォローする

コメント

  1. のむ より:

    素晴らしい記事ですね!
    鉛はまちがいなく人類を苦しめてしまう元素です。
    鉛の危険性をもっともっと知ってもらわなければ
    ならないと考えています。

  2. のむ より:

    素晴らしい記事ですね。
    鉛は人類にとって危険な元素です。
    もっともっと鉛の危険性を訴えていかなければいけません。
    私もがんばります。

  3. クランケ つりお より:

    >のむさん

    見て下さってありがとうございます。
    そう、私は調べるまではよく知らなかったんですが、鉛はとても危険な物質のようですね。

    私自身は鉛オモリも使用するので偉そうなことは何も言えませんが、この記事が「鉛というのがどんなものなのか」ということを知るきっかけくらいになってくれれば幸いです。